This is love 〜*
23
シャワーを浴びて、遅い夕食をとり、彼女を家まで送る。
つい数週間前までに当たり前になりかけた習慣をまた繰り返した。
「あ、滉平さん。ここで…」
そこは彼女の家の近く。以前はここで彼女を降ろしていた。
「ダメ、家まで送る!」
「あ、あの… でも、お父さん厳しいから…」
「厳しいお父さんだからだ」
コソコソ付き合っていたって、認めてもらう事なんて出来ない。
「けど、そんなことしたら、会えなくなるかも…」
どうしてそうなる? はじめから決めつけて…
「厳しいのは、志穂のことを大事にしてるからだろ?
だから俺も志穂のことを大事にするって証明しないと…
それに志穂とはちゃんとしたいから、もう見合い話なんて持って来られたら困る。違うか?」
志穂がいつも門の中に消える家。
それぐらい見ていたらわかったから、その家の真ん前の路肩に車を寄せ停めた。
「…あの、滉平さん?」
助手席で彼女がモジモジとしている。
突然の事で困っているんだろうけど、これだけは譲れない。
夜遅いだのそんな理由もわかるけど、今日の目的はとにかく『送って来た』ってことを知ってもらう事だ。
挨拶は後日。
「行こう」
車を降り、外から助手席のドアを開ける。
「あの…」
まだ躊躇ったような彼女の様子に微笑んでみせた。
「別に何も言わないから、今日は本当に送って来ただけだ。
挨拶は日を改めてにするよ。」
「滉平さん!」
真っ赤な顔の彼女の背を押し、促しながら門を入り、玄関に続くポーチを進む。
「志穂って、やっぱ、お嬢さんなんだよな?」
豪邸とまではいかないかもしれないが、それなりに立派な建物がどっしりとあった。
志穂を見ると下を向いたままフルフルと首を振っている。
「いつもチャイム鳴らす?」
またフルフルと首を振る。
「そっか… 今鳴らすと迷惑?」
今度は縦に首を振る。
出来れば家の誰にでもいい『遅くなって申し訳ありません』の一言でも言いたかったのだが…
「滉平さんは…」
『そんなところにいないで、入っておいで』
突然聞こえた声は、インターホンに付いてるカメラのスピーカーからだった。
* * *
えっと、この場はどうしたら…
リビングのソファーに滉平さんと私が並んで座っていた。
向いには口をへの字に結んだお父さん…、何故か家に居たお兄ちゃんがコーヒーを出してくれる。
『そんなところにいないで、入っておいで』その声はお兄ちゃんのものだった。
どうしてって思うよりも『知られた』って思う方が勝っていて… これから先どうなるんだろう?
お父さんは私たちの事…
また滉平さんに迷惑かける事になるかもしれない。それがどうしようもなく重い。
「あの… 紹介…」
「こんな遅い時間に紹介もないだろ!」
お父さんの機嫌は最悪で…
「遅くにすみません。でも、お会い出来て良かった」
そう言ったのは滉平さん。
どうしてだろう? 何故か余裕があって…
口元に浮かぶ笑みに見惚れてしまう。
「…志穂… 話、進まないよ」
お兄ちゃんに声を掛けられて、改めて今の状況のマズさを思い知った。
お父さんの手が震えている。
やっぱりかなり怒ってる。
「あの、お父さん… お願い、紹介させて!」
「招き入れたのは俺だからね。話聞いてあげて」
そのお兄ちゃんの言葉に力をもらって、ソファーから立ち上がった。
大きく息を吸って、父の方に近付く。
「…お、お父さん、滉平さんです。鏑木滉平さん。
あの、……い、今、お付き合いさせてもらってます!」
手のひらで彼を差すと、いつの間にか立ち上がっていた彼が深々と頭を下げた。
どう言えばいいのか一瞬迷った。チラッと彼を見ると少しだけ口角を上げ微笑んでくれたみたいで、
最後の方は一気に言った。
けどこれで、お父さんの怒りを買うのは必然だ。認めてなんてくれない…
きっと… だって… 私は……
「鏑木滉平です。志穂さっ」
「もういい!」
バンッと机が鳴った。滉平さんの言葉は途中で止められて、続けることは出来なかった。
「克彬、酒の用意。滉平くん? か、車は中に回してもらえるかな?
今夜は泊まっていきなさい」
父の声が響いた。
更新の予定がなかったのですが、頑張ってみた!
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