This is love 〜*

12


「志穂さん!」


会社の廊下。
突然呼び止められ、振り向くと佐々木さんがいた。


「はい?」


なんだろう? 少し首を傾げ、次の言葉を待った。


「えっと、お昼、一緒にどうですか?」


あぁ、お昼?
最近少し忙しくて外に出れなかったから、今日は久しぶりにお兄ちゃんの所に行こうと思っていたんだけど…
滉平さんも来るみたいだし、お昼も一緒出来るかななんて…
そういえば滉平さん昨夜なんかすごく軽く「一緒に行こうか?」って言ってたけど、これって『紹介』みたいで緊張する。
そうなのよね。朝からその事ばかり考えて…


「今日は、兄のところに…」


顔が少し赤くなっていたと思う。それを隠そうとして俯いた。


「あぁ、お兄さんの所に…
じゃ、その前に少しお話だけでもいいですか?
時間が無いようでしたら、仕事、終わってからでもゆっくり…」


うーーん…
終わってからって、それじゃ滉平さんとの時間減っちゃうし、なら、今から少しの方がいいかな?


「少しなら…」


そう言って顔を上げると、佐々木さんが何故か目を細めて嬉しそうに笑っていた。




* * *


今日はよく晴れてる。
そろそろ次回作の準備を本格的にはじめないとな…
ここのところ集めた資料の整理で時間を取られていた。
夜は志穂が来るし、門限までの少しの時間しか一緒にいれないから、そんな時間に仕事したくないし…
必然的に志穂が会社に行っている時間に仕事をするという、規則正しい生活になっていた。
昨夜、「明日はお兄ちゃんのとこ行こうかな?」彼女がそんなことを言っていた。
それに便乗して「俺も行こうかな」って呟いていた。
志穂と一緒に行って、俺はなんて挨拶するんだろ?
志穂はなんて紹介してくれるんだろ?
まさか、カウンターとテーブルに別れて座るなんてことはないだろうけど…
……ないよな?
まさかな……


「…志穂だからな… ありえるかも…」


そう声に出して言うと、それが答えのようで…


「ないよ! 今更」


否定して家を出た。
時間は少し早くなるかもしれないけど、先に行ってよう…
先に行ってカウンターに座っていれば、彼女は横に座るしか無いだろう。
ちょっと卑怯かもしれないけど…
そうなれば俺とも話すだろうし、兄さんとだって…
はっきりさせるにはいい機会だよな?
彼女が俺のことなんて言って兄に紹介するのか…




* * *


「えっ?」


今、なんて…


「えって、…真剣にお付き合いしていただけないかと…」


それって…
佐々木さんが少し赤い頬を右の手の指でコリコリ掻いて、それでも優しい微笑みを向けてくれる。


「どういうこと?」


佐々木さんが… 私と?


「どういうことって… 勘違いしてもらいたくはないんです。
お父さんからの話ではなく、俺個人でそうさせてもらえたらって思って…」


佐々木さんが私と付き合いたいって、それじゃ…


「ホント、はじめはよくは考えてなくて、でも、最近どうしても志穂さんに目が行くというか…
あなたのこと、その… 可愛い人だなって……
2人で出かけたのも、こんなのも『あり』なんじゃないかな?って、
志穂さんといると癒されるんですよね。疲れてる時とかでも頑張れるっていうか…
だから、志穂さんさえよければ、俺との事、真剣に考えてもらえないかな?」


「あの、えっと… 突然で…」


『突然』なんて言葉はおかしい。だってはじめからそういうこともあるだろうって思っていたし、
周りはそれを期待していただろうし…
問題は佐々木さんが私を気に入るかだけだったハズで、『はい』って言わないといけないんだ。
でも、頭に浮かぶのはやっぱり滉平さんの事。
もっと傍にいたい。もっと彼を知りたい。


「あの、…私なんかで、いいんですか? 佐々木さんなら、他にふさわしい人が…」

「志穂さんがいいんです。俺、決めましたから!」


恋愛に縁のなかった私にはこんな言葉嬉しいはずなのに…
『志穂がいいんだ』って滉平さんが言ってくれたら、きっとすごく嬉しくて、泣いちゃうだろうな?
もうダメだね。これで、もう、滉平さんには会えない。
会っちゃいけなくなった。




重いなぁ〜 この回。
しばらくこの重さは続きます!!

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