This is love 〜*

13


結局、お昼、食べれなかったな。お兄ちゃんの所、行けなかった。
どうしよう…
佐々木さんにお返事は待ってもらった。
待ってもらったけど、お断りなんて出来ないだろうな?
それでいいって思ってた。思ってたから、佐々木さんと2人で会ったんだし…
お返事、待って下さいなんていうのも、間違ってる。
私は、了解してたんだから、あの場合は『お願いします』が正しいのに…




* * *


扉を押すとカラン鐘が鳴った。


「いらっしゃ、い… 志穂?」


結局、逃げ込むのはここか…
就業時間を迎え、重い体を引きずって滉平さんの所にも行けず、家にも帰れず、向った先はお兄ちゃんの所。


「どうかした? 酷い顔色だ」


驚いたように目を見開き、次に眉間に皺がよる。
そんな顔を歪めてしまう程、今の私の顔色って最悪なんだ…
滉平さんのところ、行かなくてよかった。でももし、滉平さんのところに行ったら心配してくれたのかな?


「今日、お昼食べ損ねて… 何か軽くちょうだい」

「…志穂の事は話してくれないとわからないんだよ?」

「…うん、その時になったら話す。今は…」

「違うだろ? 相談しろって言ってるんだ。
決めた事の報告ではなくて… 決める前に、話すんだ。俺は志穂の兄だろ?」

「ありがとう… でも…」


静かに首を振るしかない。話せないよ。
こんなに揺らぐとは思わなかった。
こんなに好きになっちゃってたんだ…
もしもこのことを滉平さんに相談したら、どんな答えをくれるかな?
でもきっとそれはすごく迷惑な事で、きっと困らせてしまうだけだ。
だって体だけなんだから、滉平さんには特別な感情なんてないんだから…
お兄ちゃんだってそう。お兄ちゃんのお店のお客さんとこんなことになって…
きっと呆れて、どうしようもない妹だって…


「でも、今はホラ、ただのお客さんだから…」


今日、コトンと私の前に置かれたものは、鮮やかな色をしていた。


「あ、スパゲティ! ケチャップの、懐かしい…」

「ナポリタンぐらい言ってもらいたいね」

「ケチャップでしょ?」


さっそく、とフォークに麺をクルクルと絡める。懐かしい味の記憶が口の中に広がった。
こんなどうしようもない状況でもお腹は減るのよね? ってちょっとおかしくて、自然に優しい気持ちになれた。


「違うだろ? これをケチャップのとかいう女を彼女にしたくないね。
……彼、お昼、待ってたよ」


パクリと麺を口に放り込む前に、カチャンと音をさせてフォークが落ちた。
来てくれてたんだ… 待っててくれてたんだ…
たぶん、今も家で待ってくれてる。
私が玄関のチャイムを鳴らすのを待っててくれてるんだ。
『勝手に入って来ていいのに』って言いながら、鍵を開けてくれて、そこで1つキスしてくれる。
荷物があったら、荷物を持ってくれて…
食事したり、抱き合ったり…


「………彼、じゃ、ない…」


そうだもともと思い出が欲しくて、一度でいいからって…
なのに滉平さんは優しくて、『明日もおいで』って言ってくれた。
いつもすごく優しくしてくれて… 私はずっとそれに甘えてばかりで…


お兄ちゃんは何も言わない。
お兄ちゃんも待っててくれる人だ。優しい人だから…
いつもちゃんと見守ってくれてる人だから…
小さな音をたて、フォークに麺を巻き付ける。


「今日、佐々木さんから『お付き合いして欲しい』って言われた。
初彼氏だよ。彼女にしたくない子の彼氏なんて、可哀想だよね?」

「可哀想なのは、違う意味でだろ?
他人の事ばかり考えないで、自分の事考えろ。
イヤならそう言えばいいんだ」

「…やだな…… 滉平さんと同じ事言うんだ」

「彼は大事にしてくれてるみたいだな?」


うん。大事にしてくれてる。コクリと頭を縦に振った。
悲しい程、大事にしてくれてる。そんな必要ないのに…




* * *


「今日は遅いな?」


いつまでも鳴らない玄関のチャイムに時計を見た。
いつもならとっくに来ていてもおかしくない。


「昼も来なかったし…」


何か嫌な感じがする。もうこのまま会えないんじゃないかって、そんな絶望に似た不安な感情。


「遅い…… 遅過ぎる」


1分がやけに長い。俺はここで何をしてるんだろう?
いつもただここで彼女を待ってる。
俺から声を掛けたのって、携帯を届ける時だけだもんな…
後は、彼女の『お願い』で抱いたんだ。
夢中で彼女を抱いた。
女性経験が無かったわけじゃないのに、彼女を追いつめながら、逃げられないようにして… 夢中で…
途中で彼女がまっさらだと気が付きながら…
優しくするって言いながら、優しくなんて出来なかったんだ。
欲しくて、欲しくて仕方なくて、逢う度に抱くことしか出来なくて…
あんなはじまり方だからか? ヘンな感じだ。
いつまでも不安定で、抱きしめているはずなのに、そこは空っぽで、彼女の顔が見えないだけで何か…


「…迎えに行くかな?」


彼女の携帯に掛けた電話は無情に『電波の届かない所にあるか…』そんなアナウンスを伝えるだけだった。





お昼にナポリタン食べます。

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