This is love 〜*

6


「明日は1日家にいる予定。でももしいなかったら、勝手に入って待っててくれたらいい」


彼、滉平さんはそう言ってくれた。
明日も…
そんなこと望んではなかった。
だって、一度でいいって思っていたし、ただこのまま親の決めた相手となんてって…
それだけだったんだから…


でも握った鍵に顔が緩む。
明日も会えるんだ。会ってもらえるんだ!
そのことが嬉しくてニコニコしているうちに今日の終業の時間を迎えていた。






「あ、志穂さん? 今日はこの後何か予定あるんですか?」


そう聞いてきたのは父の秘書をしている西島さん。


「あ、友達と会う予定があって…」


何か? そんなつもりで小さく首を傾げると、


「いや、社長がぶつぶつ言ってましたから…
ちょっと、機嫌悪そうですから、早く帰ってきた方がいいですよ?
週末のこともあるし…」


父とはかなり古い付き合いの西島さんは、ご近所の良いおじさんっていう雰囲気のある人だった。
『志穂さんのことはこんな小さい時から知ってる!』って指で1センチぐらいの大きさを示しながら言うのが口癖で、
本当に小さい時は『しーちゃん』と私の事を呼んでくれていた。


「…あ、ちゃんとわかってます。
だから、その前に少し友達と… 門限までには帰るって言っておいて下さい」


今は、今だけは誰にも邪魔されたくない。
週末の予定もちゃんと頭に入ってる。だから…


「わかりました。上手く言っておきますよ。
お友達との付き合いも大事ですしね。話がまとまればなかなか遊ぶ時間もなくなるし…
ただ、気を付けて、あまり遅くならないように!」


そう言って西島さんは後ろ手に手を振りエレベーターの方に向う。
たぶんこれから父のいる部屋に行くんだ…
父を裏切っているって罪悪感はある。
週末予定されているのは私の見合いだ。
でも、見合いをする前なら、返事をする前なら… 少しだけ自由をちょうだい。




* * *


「…いらっしゃい…… 今日は来ないかと思った…」


そう言って通された部屋は昨日の寝室ではなくて、広く明るい、リビング。
フワリとコーヒーの香りが広がって、なんだろう? すごく落ち着く…
自然と体に馴染む香りに、目の前にコトンと置かれたカップ…
あれ? この香り、このカップ… お兄ちゃんのお店のと凄く似てる…


「このコーヒーって…」


「うん、お兄さんのところの… 好きなのかと思ってわけてもらってきたんだよ」


「それにカップも?」


「あぁ… 同じの探したけど、見つからなくて似たようなのになった。
キミのだけ特別っぽかったから、好きなのかと思って…」


「…それって……」


私の為に…?
横を向いてる滉平さんの頬が赤い。
なんだろう… 胸の奥がポッカリする。
両手でカップを包むように持って口に運んだ。
お兄ちゃんの大好きな香りと味のコーヒーがスッとなじむように喉を通って行く。
嬉しい… 昨日の今日でお店には行けなくて… 今日は飲んでなかったんだ。


「お兄ちゃん、このコーヒー凄くこだわり持ってるんです。
家にいる時からいろいろ勉強して…
凄く頑張ってこの味にしたんだって言ってました。
小さい頃は私、コーヒー苦手だったけど、お兄ちゃんのは平気で… それより、大好きで…
おねだりして飲んでたんです。
今も一番好きなんです」


和むな〜
まだよく知らない人のお家で、馴染みのあるものに出会うと、それだけで緊張の糸がフワッと解ける。
それがこのコーヒーにカップに…
私の為に滉平さんが用意してくれたものなんだからなおさら。


「お兄ちゃん…ん? ッン、ア…」


気が付いた時には唇で口を塞がれていた。
何が起ったのか一瞬理解出来なくて、目を見開いたままそのキスを受け取っていた。


「うっ… ん、ぅん、ん… はっ、はぁ〜」


突然の事で上手く息が出来ない。
途中からギュッて目を閉じて腕の傍にあった彼の服の袖をしっかりと握りしめた。
やっと唇が離れて浅い息を繰り返す私の背に滉平さんの腕が回る。


「ごめん、ゆっくり話したかったけど… やっぱ、こっち!」


そう言ったかと思うと軽々と抱き上げられていた。


「…あ、あの!」


行き着いた先は昨日と同じ場所。


「今日も抱くよ?」


私はその言葉にまた頷いた。




* * *


カランといつも通り店の戸を開けると鐘の音が響いた。
昨日の今日で来る事は躊躇われたけど、『会いたい』という気持ちが勝っていた。
どうしようもなく会いたくて、普通の会社員の彼女が昼間に俺の部屋に来る事はないだろう。
けど、ここなら… 今までもずっと昼に来ていたんだ、一番彼女に会える確率があるのはここだった。


「いらっしゃいませ…
あ、昨日はすみませんでした」


俺に気付いたマスター、彼女の兄がにこやかに話し掛けてきた。
俺はいつもの席に向いかけて、立ち止まった。
そのままカウンターに腰を降ろす。


「あ、イエ、すぐに追いついたので…」


そんなことを話してみたけど、ちょっと間が悪い。
悪い事をしたわけではないのに何故か居心地が悪かった。
ろくに話す事もないまま時間は過ぎて行った。






「…今日はあの子来ないようですね?」


そう先に呟いたのはマスターの方。


「…そう、みたいですね…」


読まれてるのかな? そんな疑問が頭に浮かぶ。
フト目を上げると食器棚の前の方にいつも彼女の使っていたカップがソーサーとセットで置いてあった。
鮮やかなピンク系の色の小花がちりばめられたカップ。
今俺の目の前に置かれているのは白地に水色の模様が入ったものだ。
他の食器棚の物もブルー系やグリーン系が多い中やっぱり彼女のカップは他の物とは違う。


「若い女の子はそんな色のカップが好みみたいですよ?」


マスターが俺の視線を追ったのか、ポツリと呟く。


「ここのコーヒーも凄く好きそうですね。
いつも美味しそうに飲んでいて…」


マスターの言葉につられるようにそんな自分の首を絞めかねない言葉を吐く。


「ええ、あの子は、ここのコーヒーを気に入ってくれていて…
もしよかったら、お分けしましょうか?」








ヤキモチだよな?
モヤモヤした気持ち。
兄なんだから… けど、すっきりしない…
そんな気持ちを消したくて、今日は手を出さないでいようという決意はあっけなく砕かれた。


カップのイメージは背景画像通り。
たぶん、滉平が買ったのはソレだと思われます。
(金銭感覚違うような気がするのよね…)
画像、ちなみにヘレンドのプティットローズでした!
名前知りたくて探しました!ヘレンドってヒントは素材サイトの管理人様より、今は閉鎖してしまったようですが、 Mon petit bambin さんにあったので…
綺麗なカップですよね〜〜〜
管理人、あまり興味がないので、100均でOK!
飲めりゃいいのよという人間なので、申し訳ありません。良さがわかりませんf^^;)

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