This is love 〜*

27


でっかい爆弾が空を埋め尽くすように現れて、一気に落ちて来た。
今、こいつなんて言った?


「パーパァ」


また言った!


「ホラ、滉平! この子、溜生。滉平の子供だよ!」


これは、どうしたらいいんだ?
言葉もなく、ただその子を見下ろしていた。


「溜生くんっていうんだ… こんにちは」


そう言ったのは彼女だった。
子供の前にしゃがみ込み笑顔を向けている。
はじめキョトンとしていた子供が彼女の笑顔につられたように笑った。
なるほどこんな感じか… もし、俺らが結婚したら、数年後には彼女は子供を抱いてるかもしれない…
それはたぶんこんな感じ…
って、その結婚も今、危ういんじゃないのか?


「…雛! こっち来い」


この状況を作ったのは少し離れたところで腕組みをしている少女。
まだ10歳になったばかりだったか? でも表情や仕草はやけに大人びていて…


「い・や・だ!」

「雛! ちゃんと説明しろ! 出来るだろ? この子が俺の子だっていうなら…」


そこで俺の言葉を止めたのは志穂だった。
しゃがんだ位置から腕を伸ばし、俺に対して非難の視線を向けている。


「滉平さん、あまり大きな声出さないで、泣いちゃうから…」


彼女の胸の中には涙を溜めた溜生がいた。
説明しないと、これは、ここはちゃんと説明して… って俺は何を説明するんだ?
自分でも飲み込めない状況を、こんな日に、こんな場所で、どんな事を説明するんだ?


「…志穂、あのさ… 違うから、これは…」

「そんなの関係ないよ?」


溜生をあやしながら志穂は笑っていた。
俺に対してはどこか幼い少女を思わせる彼女の仕草が、子供を相手にするとどう見ても母親の顔をしている。
こんな顔もするのかと、驚くことしか出来なかった








「ハイ。そこまで!!」


突然パンと手が叩かれて、何かの終わりを告げた。


「パパ! まだだよ!!」


その音に合わせたように少女がビクンと震える。


「もう、終わりだろ? 雛! 溜生、おいで…」

「パパ!!」


志穂の胸の中にいた男の子が駆け出して行った先には…


「兄貴?」

「久しぶりだな。滉平」




* * *


その人が滉平さんのお兄さんなんだって一目でわかった。
どこか雰囲気が似ている。


「よく来たね」


そう私に向って言ってくれた。


「は、はじめまして! 私…」

「挨拶は中に入ってからにしようか? 滉平もいつまでも玄関にいないで」


そうだ、私たちまだ靴も履いたまま…


「兄貴! ちょっと待てよ。その子…」


滉平さんが慌ててお兄さんの後を追いかけて行く。
そうだ、その子滉平さんのお兄さんの事を『パパ』って言ってたよね?


「この子? 俺の子。長男の溜生。会うのはじめてか?」

「えっ、あ、兄貴んとこの?」

「なんだ、ホントに自分の子だと思ったのか?」

「…え? イヤ、そんなこと…」

「身に覚えはあるってことなんだよな?」

「…あの、それって… 問題あるんですか? さっき雛ちゃんも私が泣くって…
滉平さんに子供が居たとしても、それで何か変わるんですか?」


そうなんだ…
滉平さんに子供が居たとして、それは私達が出会う前。
出会ってからっていうなら、私はきっと滉平さんを責めてしまうだろうけど…
出会う前の事を言ってみても仕方がないんじゃないかな?


「えっと、何が変わるって… 何も変わらないか…」

「その時、滉平さんが相手の方を大事に思ってたなら、それでいいのかなって…」

「へぇー ちょっとぐらいショックはないの?」


ショック? ショックって…
滉平さんにとって私ははじめてじゃないのはわかってるし…
その時に、子供が出来ていたら…


「…わかりません。今はホントじゃなかったし…」

「ないから! そんなことはない! けど、志穂はわからないよ。もう子供いるかも?」

「へ、お前、そんなやり方してるのか?」

「責任は喜んでとるよ。っていうか、子供、出来てると嬉しいかな?」

「いや、そういう問題じゃ…」

「そういう問題。俺は志穂と家族になりたい。家族を増やしたい。
そう思ったから連れて来たんだよ。
それより、雛は何がしたかったんだ? 急に『赤ちゃん』なんて…」

「それはお前の所為だろ?
お前、雛に結婚しようって言ったんじゃないのか?」

「雛に? 逆だろ? 結婚しようっていうから… いいよって言った覚えは…
って、そんなのずっと前だろ? 確か雛が保育園ぐらいじゃないかな? 青いスモック着てた時だ」

「それだな。
まぁ、娘をお前にやる気はないけどね」


そんな兄弟の会話が目の前で展開していた。
でも、私は進路を妨害するように立ちはだかる少女と向き合っていた。


「滉平は私と結婚するの! あんたなんか、認めないんだから!」


真剣な眼差し。
えっと… ここはどうしたらいいんだろう?


「私なんて、滉平のこと全部知ってるんだよ! お風呂だって一緒に入ってたんだもん!
結婚するって約束したんだから! 私の方が先に約束したんだから!」


叫び続ける少女の声は少しずつ震えはじめる。


「なんで、泣かないのよ! テレビじゃこんなとき女の人泣くんだよ!
泣かないのなんて、可愛くないんだから!!」


最後はポロポロと涙を流した。


「私の方が、滉平を好きなんだもん。ずっとずっと、大好きなんだもん!」

「…私も…… 私も滉平さんのこと大好きなの。誰にも渡したくない。
雛ちゃんもそうなんだね? 同じだ!」

「違う! 同じじゃない! 雛の方が一番!」

「うぅん、私も! 負けないから!」

「違う! 雛!」「私!」

「コラ! いつまでやってるんだ! 志穂、皆、待ってるんだけど?」

「あ、滉平さん…」

「雛には悪いけど、俺、志穂と結婚するんだ… 約束、守れなくて、ごめんな?
でもな、雛の事も大事だ。当たり前だろ? 雛の事は赤ん坊の頃から知ってる。
雛が大きくなるとこずっと見て来たんだ。雛は俺の娘みたいなもんだろ?」


滉平さんは私の手を取りながら真っすぐに少女を見つめたままそう告げた。
そして「行こう」と私たちを促してくれる。
雛ちゃんは両手で涙を拭いながら先に駆けって行った。


「滉平さん、格好いいよ」

「志穂もだろ? 真剣に雛に付き合ってた。あんなの軽く交わす事出来ただろ?」

「だって、雛ちゃん、真剣だったし… 私だって真剣なんだもの」

「俺だって真剣なの… じゃ、改めて紹介するよ。俺の家族」

そう言って滉平さんがリビングのドアを開けた。


滉平さんの家族でした。
志穂のところに比べて、大人数の家族ですね〜

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