This is love 〜*

25


「体調が良くないらしい」


お兄ちゃんが静かに話してくれた。


「志穂、お前の縁談急いだのはそういう理由だ。
俺はある程度一人でもいいだろう… 会社も任せられる人間はいる。
でもお前の事だけは、このままじゃ心残りだって…
志穂は従順で、親の言葉には否とは言わないだろ?
だから、従うなら自分の信用出来る人間に志穂のこれからを任そうってね。
考え方は乱暴だけど… 会社の跡取りをって考えは無かったらしい。ただ。お前のためにって…
相手がいるなら、そいつが志穂の事をちゃんと考えてくれる人間なら、文句はない」


「…そんな……」

「滉平くんは俺の見立てた人間だって、ちゃんと言っておいた」

「そんな、私のためって…」

「…会社から志穂のためにナポリタン作りに帰って来る人だもんな…」


ボソッと滉平さんの呟きが聞こえて…
そうだ、お父さんは昔そんな人だった。
お兄ちゃんや私のタメに一生懸命だったんだ。


「こんなこと、急かす事じゃないけど、そんなわけだから… 安心させてやってくれないかな?」


クラリと地面が揺れた。
そんなこと… そんなこと… だって…


「志穂!」


支えてくれる腕は滉平さんのもの。
けど… 


「だって、そんな…」


信じられない。信じられないよ!
お父さんは私の事なんて見てくれなくなったはずなのに、『ダメだ』っていろいろなことに口出して来るようになって…
私の自由なんて、なくて… お兄ちゃんだって、出て行かなければならなくなった…
門限だって、少しでも遅くなったら凄く怒って、『そんな友達と遊ぶな』って…
けどそうだ。その時間にお父さんは必ず家にいたんだ。


「信じられなくても、志穂… 別れは誰にでもいつかは来る。
それは突然かもしれないし、ゆっくりかもしれない…
俺たちはそれをよく知っているだろ?」

「もう一度、ちゃんと挨拶しないとな…
志穂が今返事してくれた事、お父さんに伝えよう」


滉平さんの言葉に涙が零れて、私ははっきりと頷いた。




* * *


先に休んでしまったお父さんへの正式な挨拶は明日にして、今日はもう休む事にした。
いろいろな事があった。
思いがけず俺の手の中に落ちて来た志穂は真っ赤な顔で俺の腕の中にいる。


「あ、あの滉平さん。狭くないですか?」

「そうだね。狭いね?」

「お客さん用の布団持ってきましょうか?」

「もう、客扱いしなくていいんだろう?」


ゴソゴソ伸ばした足を彼女の足に絡めた。


「あ、あの… 滉平さん。眠れますか?」

「寝れないかな?」

「やっぱり布団…」

「客用の布団で2人で寝る?」

「それじゃ、意味が…」

「ないなら、このままでいいだろ?」


少し腕に力を入れ彼女の体を一層引き寄せた。


「滉平さん? 本当に良いんですか?」


志穂が腕の中で小さく身を捩る。


「何が?」

「急にヘンな話になって…
急、過ぎますよね… まだ私たち、付き合うと言っても…
もうしばらく考える時間があってもいいんじゃないかって、お父さんの事は気にしなくても…」

「『渡りに船』俺にとってはね。
密かにこうなる事を期待してた。期待以上の成果で満足なんだけど…
志穂はもっと考える時間欲しい?」

「え、私? 私は… 滉平さんと、なら…」

「初体験の相手に選んでくれたなら、これから先の人生の相手にも選んでよ」


俺の腕の中で彼女がギュッと体を縮めた。
きっと顔は耳まで真っ赤だ。


「志穂は俺のだろ? で、俺は志穂の…」


コツンと胸に彼女の額が当たった感じ。
癖になりそうな彼女の抱き心地に胸の奥が熱くなった。
ゴソッと志穂が動いた。ゴソゴソと… なんだ?


「志穂? どうした… ん? … っ!  え? 何?」


鎖骨の辺りにチクッとする痛みがあった。
けどその痛みの前には柔らかな志穂の唇があったたハズで…


「滉平さんに印付けちゃった。私のだって印… 消えないといいな…」


小さな彼女のイタズラがどうしようもなく可愛くて…


「消えたら、また付けたらいい… 何度でも、好きなだけ…
けど、俺も付けたいな。付けていい?」

「…う、ん…… でも、私にはもういっぱい付いてますよ?」


それからしばらくそんな遊びをしていたら、彼女が小さく欠伸をした。


「眠くなった?」

「……ふぁ、ん… 少し…」

「寝よっか?」


コクンと彼女の頭が縦に揺れて、俺のシャツの胸の辺りを彼女の手がギュッと掴む。


「なぁ、志穂寝る前に少しだけ聞いてくれるかな?」


志穂が目を擦りながら小さく首を傾げる。
そんな仕草が可愛くて、クシャッと彼女の髪を撫でた。


「俺、この家、住んでいいかな?」

「… … …えっ!」

「随分間があったけど… 大丈夫?」

「この家に住む?」

「うん。結局それが一番いいような気がするんだけど…
志穂のお父さんの体調が悪いなら尚更… 兄さんが帰って来るなら話は別だけど…
兄さんは帰って来るつもりなのかな?」

「……滉平さん…」

「うん?」

「滉平さん。…滉平さん?」

「ダメかな?」


フルフルと首を振る。


「本当に?」

「うん」

「滉平さん、あの… あのね… あの、ありがとう」


抱きついて来た彼女の目元が濡れていた。
また泣かせたかな?
でもそれは嬉しい時の涙だ。きっと日の下で見たら綺麗にキラキラ光って彼女を彩る。
本当はね。彼女やお父さんのタメだけじゃない。
その方がこれから先彼女の迷いを減らせるから、この話を無かったものにしないための予防なんだけどね…
だから志穂、そんなに嬉しそうに俺に抱きつかないで、ちょっと良心が咎めるから…





なかなか思うように時間がとれなくて、更新遅くなってます。
気長におつき合い下さいね*

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