This is love 〜*

21


「!!」


何、言って? なんで? あいつとは?
震える声が伝えたのは、理解出来ない言葉だった。
プツンと何かが切れる音。それを最後に頭の中は真っ白になった。


「ンンッ、ンッ… ハッ、…ッン、ンン」


今日は彼女に問い返す余裕はない。
ダメだって言われた所で、止めれる自信もない。
無理矢理自分の方を向かせて、噛み付くようなキスをした。
奥に逃げ込もうとする舌を追いかけ絡め貪り付く。
乱暴に彼女の着ているものを剥ぎ取ろうとすると、ビッと微かに糸の切れる音がした。


胸を強く揉み上げると、身を捩り辛そうに眉根を寄せる。


「ッン あっ あ… 滉平さん」


噛み付くようなキスを体中に降らせた。


「あンっ んん… こ、滉平さん!」


悲鳴にも近い彼女の声に耳を貸さず、彼女の了承も得ず、彼女の腿に手を廻し大きく開いた。
もう理性は欠片も無い。ただ失ったはずのものが手の中にあって、求めずにはいられなかった。
彼女の中に舌を這わせ、中心を舐め上げる。あんなに恥ずかしがっていた行為に彼女が身を捩って応えた。


「滉平さん! あっ あ…」


ぺちゃぺちゃと水音をさせ、彼女の中を掻き回し吸い上げる。
彼女の手が俺の髪に触れ、クシャッと握る。


「ッン、ッン、 あっ! あ…」


優しく切な気に動く彼女の手がその先を求めているようで…


「あ、あ… んっんん! んあっ!!」


彼女の体がビクンと大きく仰け反る。


「あ、あ、… 滉平さん何?」

「これははじめて?」

「あ、え…… 何?」

「あいつとは、どんなふうにした?」


俺、何言ってんだ? こんな時に… 今、目の前にいるのは志穂で…
志穂は俺を受け入れようとしてくれてるのに、こんな時に何言ってんだよ?


「あいつ… あ、佐々木さん? っん!」


何やってるんだ? ほんとに、答えようとした彼女の口を塞ぎ、また舌を絡める。

必死で俺について来ようとするぎこちない彼女に苛立ちが募っていた。


「ッン! ンンッ!!」


唇を塞いだまま、彼女の片足を持ち上げ一気に押し上げた。


「ッン  あ… あっ あっ あっ……」


切ない声が響いて、志穂の腕が俺を抱きしめた。




* * *


お互い息が上がって、荒い息を繰り返していた。
俺の汗が頬を伝い、彼女の目の下に落ちる。


「…あ」


その汗を拭おうと伸ばした手に彼女の手が触れた。
赤い拘束に痕が残る手首。ここに来るまではなかった。
俺、こんな力…


「…ごめん。こんな、乱暴な、事…」


こんな、まるで、犯されたみたいな痕。そうだ、今、彼女の全身に残るのは犯された痕だ…

交際相手と違う男に乱暴な行為をされた証…


「違う。私が悪い。ごめんなさい… ごめんなさい!」


今日、彼女からこの言葉を聞いたのは何度目だ?
どこからどう見ても、悪いのは俺だ。


「…俺…… 志穂の前から消えるから… 今日の事も、今までの事も全部忘れてくれ」

「どうして…?」




* * *


「どうして…?」


全部忘れる? 今日の事も、今までの事も全部?
滉平さんとの事を?
こんなに満たされてる自分を忘れるなんて出来ない。


「こんなの覚えてたら、幸せになれないだろ? こんな、彼氏裏切るような事…
俺は許せない。彼氏いるのに他の男と寝る女も、男も…
お願いされたって、するべきじゃない。そうだろ?」


滉平さんが静かに言った。
彼氏… 恋人がいるのにってこと?


「あ、…滉平さんの彼女……」


そうだ。私は今見たばかりだったんだ。滉平さんの彼女。
ずっと前からお付き合いしてる人… 私は知ってたのに、滉平さんにお願いばかりして…
優しくしてもらったからって、調子にのって…
私だって嫌だ。滉平さんが他の人となんて… 嫌だよ。


「だから。俺じゃなくて… 俺はいいんだよ。俺の好きなのは…
第一、彼氏って言っただろ? 彼氏がいるのは志穂だ」


私? 私にはそんな人…
私が欲しいって思うのは滉平さんだけで… あれ、今、『俺が好きなのは』って言った?


「私、彼氏、いないよ? 振られちゃった…」


あの場合、振られたっていうのかな? なんか、その言葉もしっくりこない。
それよりも今聞きたいのは…


「…それって、俺の所為か?」


思ってもない言葉は表情を失った滉平さんの口から漏れて来た。




* * *


「あ、…滉平さんの彼女……」


ビクッと彼女の顔が強張る。
違う、そうじゃない。そうじゃなくて…


「だから。俺じゃなくて… 俺はいいんだよ。俺の好きなのは…
第一、彼氏って言っただろ? 彼氏がいるのは志穂だ」

「私、彼氏、いないよ? 振られちゃった…」


今、なんて言った? 一気に熱は冷めて、彼女の言葉の意味を求めずにはいられなかった。


「…それって、俺の所為か?」


だから泣いていたのか? 俺の所為で失ったものへの涙だったのか?


「違う。私が悪いの」

「だから、俺の所為なんだろ? 俺がこんなこと… それにあんなこと彼氏の前で言って…」


他に考えられないだろ? あのことで彼氏を怒らせたとしてもおかしくないかもしれない。
大した事にならないと思ったけど、それは俺だけの考えだ。
見下ろす所に彼女の顔がある。困ったように視線を反らしている。
俺の所為で… なのに俺は… こんな酷い仕打ちを彼女に…
それまで陣取っていた彼女の上の位置。こんなところに俺がいるのはどう考えても間違ってる。
ガバッと体を起こし彼女の上から退いた。


「うん、と、それは凄く、びっくりして、凄く、嬉しくて…
でも、滉平さんのことは関係なくて… 私の気持ちの問題で…」


どうすれば償える? どうすれ…
…え? …ちょっと待て、今…


「…ちょっと待て、今、嬉しいって言わなかったか?」

「…? 言いました」

「イヤ、その… そういうのは、よく考えてから…
また期待するし… そしたら、また泣かせるし…」


そうだよ。それじゃまるで俺の気持ちが嬉しいととれる。
それはつまり… 志穂も…


「…? 滉平さん?」


彼女が片手で胸を隠しながら半身を起こす。
体中に俺の印を付けた彼女はゆっくりとした動作で、その一連の動きだけでため息が出る程艶かしい。
またヘンな期待で熱を持ちはじめた体には必要以上の刺激… ゴクンと乾いた喉がなる。
俺は視線を反らす事も出来ずに、真っすぐに俺を見つめたまま小さく首を傾げる彼女を見ていた。


「滉平さん?」

「だから! そんな可愛い顔されると… 誤解が生まれるんだよ」


彼女の問いかけがもう少し遅かったら、きっと間に合わなかった。
志穂から顔を背けながら、思わず大きな声が出てしまった。
バツが悪い。だんだん小さくなる声に、もう居場所が無くなる。


「どんな誤解ですか?」


ソッと、彼女が近付いた気配。


「…志穂の気持ちを勘違いする… 第一、なんで俺に『抱いて』なんて…」

「それは、滉平さんのことが好きだから…」




「……えっ?」 今、なんて……




「滉平さんに携帯届けてもらう前からずっと気になってて…
本当は一度だけでいい。
おつき合いするのは無理でも、はじめてぐらいは、自分の好きな人がよくて…
お見合いの話があったから…
そうしたら、ドンドンハマっちゃって、滉平さんにはすごく迷惑かけてしまいました。
だから、今日はちゃんとそれを謝りたくて…」

「ちょ、ちょっと待て。あのさ、もう一回言ってもらえないかな?」


サラサラと流れて行く彼女の言葉。
なんだ? なんで、そんな大事な事… なんでそんなサラッと言って話し続ける?


「えっと、もう一回… 迷惑かけて……」

「そこじゃない!」

「ハマる?」

「違う!」

「携帯?」

「だから! 焦らしてるのか!
俺が今そんな言葉聞きたいと本気で思ってるのか?」


なんなんだ? どうしたいんだ? ホントにわかってないのか?




* * *


「ちょ、ちょっと待て。あのさ、もう一回言ってもらえないかな?」


出てしまった言葉。言わないつもりだったのに…
彼女のことを知ってからは、余計に言ってはダメな言葉になってた。
心のない関係ならきっとまだマシだって… そう思ったのに…


「だから! 焦らしてるのか!
俺が今そんな言葉聞きたいと本気で思ってる?」


焦らしてるわけじゃなく、困ってるの。
一度言った言葉をもう一度言いたい。そう思ってる。
けど、それには聞かないといけない事があって… それを聞くのが怖い。


「…好き、かな?」

「って疑問形なし!」


もうダメだよね?
これ以上すると本当に滉平さん、怒っちゃいそう… もう、怒ってるかな?
でもどうしても聞かなければいけないこと… それを聞いてから…




* * *


「滉平さん…」

「…」

「迷惑じゃないですか?」


なんなんだ? 彼女の言葉遊びの意味がわからない。
熱を帯び、彼女を求める想いが苛立ちに変わる。


「そんなわけない」


そんなわけない。好きな相手に好きだと言われるのが迷惑なわけない。


「滉平さん、あの人は恋人じゃないんですか?」


あの人? 彼女のいう『あの人』が一瞬わからず、視線が宙を彷徨う。
そしてついさっきここにいた人間を思い出した。


「…あの人は出版社の人。俺の担当。打ち合わせに来てただけ…
恋人だったら、そんな人を外に追いやって、志穂を抱いたりしない」


そりゃそうだよ。なんでそんな人間気にするんだ?
でもそうだ… そういえば俺の彼女って… あいつのこと差してたのか?


「滉平さん…」

「うん?」

「好きです」


一瞬反れた気の間を付くような彼女の告白。
志穂の頬を涙がつたう。
俺はいいんだよな? この涙、止めなくてもいいんだよな?
幸せそうなこの涙を止める必要なんてない。





なんとか……
今回、ボリュームありました。
そして、とにかく読み辛い。
大幅に書き直そうかとも思ったのですが、挫折しました。
申し訳ありません。

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