13

「ただし条件がある。
あいつの部屋の外で待ってる。部屋には上がるな。鍵はかけさすな。
5分経ったら連れ出すから、話は5分以内で済ませること。
何かあったら大声を出すこと!」


山根さんの部屋のチャイムを押した。
彼はドアの反対側、死角になるところに立っている。
チラリと見ると、やっぱり不機嫌そう……
そこまで心配しなくても、大丈夫だと思うんだけど……
信用ないのかな?


『はい、開いてるよ』


中から声がした。
私はもう一度彼を見た。
シュウが腕時計を示す。やっぱり、時間見てるつもりだ。
一つ息を深く吸って、吐いた。
ドアのノブに手をかけ、開けた。


「やぁ、あんなこと言ってたからもう少し早く来るのかと思ってたよ」


山根さんが部屋から顔を出し「入って」と進めてくれる。


「今日は、ここで……」


いろいろ考えて来た言葉をもう一度頭の中で整理した。


「そう…… まぁ、じゃ、やっぱりそういう話なんだ」

「……好きな人が出来ました」


何を取り繕っても仕方ない。


「ふーーん、そう…… どんなやつ?」


どんな……
えっと、どんな…… ドアの外にいる彼を思い浮かべてみる。


「優しい人です」


そう、優しい人。それから……


「私が、ずっと好きだった人です」


思わずそう言っていた。
私が好きだったのは、山根さんじゃなかった。彼だったんだ。


「そう…… 俺は別にそれでもいいけど?」


……?


「同時進行でもいいよってこと」


! にっこりと笑ってる顔に悪意は感じない。
ブンブンと首を横に振ってた。そんなの無理!!
絶対にそんなの無理!!


「けど、そういうのは嫌いなんだよね? ここまでちゃんと話ししに来たんだもんね?
SEXは、結婚する人って言ってたもんね?」


……言った。
カッて顔が熱くなる。


「その考え、今時どうかな? って思うけど、聞いたときは新鮮だったな。
正直、結婚するならこんな子がいいって思えるぐらいには……」


山根さんとのはじめてのデートの時、そういうことされそうになって口走ってた。
でも確かにずっとそう思ってて、それが当たり前だって思ってて……


「今度の相手は『してもいい』って思える人なんだ」


そうだ。
彼とがいいって思った。
山根さんのときは決心するまで時間がかかって、誕生日って区切りを利用してしか考えられなかった。


「よかったね」


ポロッと涙が零れた。
そう言ってもらえることが嬉しくて……
私は間違ってないんだ。今度は見付けることが出来たんだ。
山根さんが私の頭にポンと手をおき、笑ってくれた。


「でも、困った。俺としてはかなり残念」


ん?


「ちょっと『触る』だけ、ぐらい良くない?」


何を?
彼の手が伸びてくる。行き着く場所は……


ガチャッ


背中で音がした。そして……


ガンッ!


凄い音がした。


「ゲッ!」


山根さんがバッと後ろに下がる。


「……良くないだろ!」


シュウが『壁』を殴っていた。


「……びっくりした」


びっくりした。


「帰るよ!」

「え? けど……」


あれ?


「話、まだ?!」

「……終わって、る?」

「じゃ、いいだろ!」


シュウに腕を掴まれた。そのまま外に出る。
山根さんが最後に何か叫んだ。
それって、どういうこと?


「サワコちゃん、ごめんね。
本当はね、キミが間違えてるの知ってたんだよね。
だから、まぁ、気にしないで!」




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