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「明日っていうか、今日、誕生日なの」
マジでか? と、それで! は同時だった。
彼女にとって、特別な日だったんだ……
「……おめでとう」
まずはそれだ。
彼女が上目遣いに俺を見る。
しゅんとして、かわいいな〜
なんて思いながら、でもその特別な日をあいつにやるつもりだったんだよな?
ってことへのこだわりもあって……
「朝一番に、一緒にケーキ買いに行く?」
そう言っていた。
過ごす相手が俺になったけど、そんな日を一人で過ごすよりはいいかもしれない。
「一緒にいてくれる?」
彼女の問い掛けに頷いた。本望だった。
大事な人の大事な日。こっちからお願いしたい。
一瞬で彼女の顔から影が消えた。
やっぱりそんなところもかわいい。
「…あ、あの、じゃ…… お風呂借りていいかな?」
そして、消え入りそうな声で「このままはやっぱり……」そんな風に聞こえた。
けど……
「キミを泊めるし、風呂も自由に使っていい、それに今夜、一緒に過ごす。
けど、今はHする気はないから……」
先にそう宣言した。
そこははっきりさせておいた方がいい気がする。
彼女はフリーじゃないし、正直気持ちも曖昧だ。
自分に本気の気持ちがある以上、中途半端なことはしたくない。
彼女は一瞬キョトンとした顔で、次の瞬間には耳まで真っ赤に染めた。
あぁ〜 そのつもりだったんだ……
どう考えても『もったいない』けど、ケジメだけはつけたい。
「ごめん。そこだけは退けない」
「あの、それって、どうして?」
悲しそうに俯いてしまったのはどうしてだろう?
どうすればもう一度笑顔になる?
「理由ってことなら、木瀬さんには一応彼氏いるでしょ?
それに、メモの人とかも曖昧。
もう、そんなので『好き』とか『嫌い』とか無しにしないと……」
理由を並べる。
でも自分でもそんな答えがいいとは思わない。
どう言えば彼女の気を惹けるだろう?
「なんて言ってるけど、ホントは、俺のことを好きになってほしい……
俺をちゃんと見て好きになってもらいたい。
もしかして、俺のことわかってないでしょ?
同じ会社にいるんだけど、気付いてないでしょ?」
あ、やばい。なんか、突き刺しちゃった。
今度は一気に打ちのめされた顔になってる。
じゃ、もう一言。
「俺のこと、わかって、俺を好きになってくれた木瀬さんとHがしたい」
今度はやっぱり、耳まで真っ赤。
少しぐらい俺の株上がったかな?
日常に戻っても、俺のこと意識してくれるかな?
彼女がコクンと首を縦に振った。
そして何か言い難そうにモジモジしてる。
「……あ、あの……」
何かかなり言い難そうだけど、なんだ?
まぁ、頬を染めて、困ってるのもかわいいんだけど……
「あのね……
私、お泊まりの用意はしてきてるんだけど……」
うん、そんなんだろうな……
腹立つけど、普段持つには少し大きめの鞄は一泊旅行のサイズだ。
「明日の服とかも用意はしてて…… 歯磨きとか洗顔とかいろいろ全部は持ってきてるんだけど……」
あいつのために用意したと思えばホント腹が立つけどね!
「……パ、パジャマだけは持って来なかったの!
着ないかなって思って…… 荷物になると思って……
何か、貸してもらえないかな?」
『あいつのために用意してないもの』に今度は俺に何かが突き刺さった。
その後は俺のシャツと短パンを着た彼女に苦しめられた。
大きめの男物のシャツを着ながらも彼女の胸の存在は確かだ。
黒目のシャツを選んだけど、先端の位置もはっきりわかってしまった。
短パンは彼女が履くとそれなりの長さになるから助かったけど、正直彼女が寝付くまで、目のやり場に苦労した。
自分で言った言葉をここまで後悔したのははじめてだ。