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「あの…… 横に座っていい?」
また何を言い出すか……
さっきから俺、ムチャクチャかっこ悪い。
何もキメられてない。
今だって狼狽えてる。返事すら出来ない。
彼女は一瞬戸惑ったふうだったが、グラスを持ったまま立ち上がり、俺の横に来た。
ギリギリ体が触れない距離。
でも、ほんの少し体を動かせば触れてしまえる距離。
「……私、自分の胸、嫌いなの」
唐突に彼女は語り出した。
思わず彼女の胸を見てしまう。
だからどうした? さっきからなんか拘ってないか?
「これ、Gカップあるんだよ? 肩は凝るし、下着はいいのないし、お値段も高くなるし……
私には何もいいことないの。
昔から私に声をかけてくれる人のほとんどが胸目当てで……
影でエロいとか言われて…… 本当に、いいことなかった」
手に彼女の胸の感触が蘇る。
そりゃ、男の中では一つのポイントになるのは確かだろうけど……
「彼もそうだったんだ……」
ぽつんと呟いた言葉。
「……今日、彼の家に行った。
まだ、帰ってなくて…… 待ってたの…… 彼のマンションのロビーのところで……
女の人と帰って来た。
エレベータ待つ間、くっついて、キスしたりとかしてて……
私のこと話してた……」
なんの修羅場だよ……
彼女の話で心当たりはある。
山根にはつき合ってる女性が居たはずだった。
別れてはなかったのか? 彼女とつき合うなら当然別れるんだと思っていたのに……
彼女が自分の胸に手をあてた。
「『あの胸、一度はしゃぶってみたいだろ?』って!」
プツンと何かが切れた音がした。
「別れろよ!」
なんでそんな奴とつき合うんだよ!
つき合う前にわからなかったのかよ!
怒りの矛先が彼女に向いそうになった。
「そうだよね?
馬鹿みたいだよね……
わからないの。どうしてあの人のこと『好き』って思ったんだろ?
違ってたの…… どうしてなんだろう……」
何を言ってるんだ?
隣に目を向けると、真っすぐに見ている彼女と目が合った。
濡れたように唇が光ってる。
数分前の記憶が鮮明に蘇って来た。
そのまま見ていたら引き込まれそうになる。
「何かあるんだろ? きっかけが……」
別にあいつを支持したいわけじゃない。
けど、あいつを否定すると、それはそのまま彼女の気持ちを否定することになる。
「……あったんだけど…… わからなくなった」
「あいつは、キミの気持ちを動かせたんだ。だからキミはあいつとつき合うことになった」
俺には出来なかった。
見てるだけ、影で応援するだけじゃ、気付いてもらえなくて当然だ。
「……あの人じゃなかったのかもしれない……」
さっきからよくわからない。
「私、チョコレートミルクティ好きなんですよね? 疲れたときとか格別で……
みんな、甘過ぎるって、私の周り嫌いな人多いけど、好きなんです」
知ってる。俺も好き。
彼女が社食に持ち込んで絶賛してるのも聞いたことがある。
確かにあれほど『好き』を全面に押し出す子も珍しいなって見てた。
「仕事で失敗した時、上司に怒られてメチャクチャ凹んでいた時に、机の上に置いてあったんです。
メモと一緒に…… メモには名前がなかったけど、あの人が傍にいて……
私、そのメモに凄く励まされて……」
……え? あれ?
「今もそのメモ、私のお守りで……
思い切って、お礼を言いに行ったんです。
その人、何度か顔を見たことあったし、開発部の人だってわかってたから……」
なんだ? その話……
「話してるうちに、つき合うことになって……」
「ちょっと、待て!
一先ず、どうしてつき合うことになったんだ?
励ましてもらって、そのお礼を言っただけなんだろ?」
その前にも突っ込みたいところはある。けど、それはまだ今はいい!
「……どうしてだろ?」
彼女が隣で首を傾げた。
「えっと…… あれ?」